
どうも、こんにちは!ロボットしずくです。稲川幸雄さんの演劇に参加したあと「劇団ロボットカンパニー」を立ち上げ、40人の仲間と舞台をつくってきた演劇人・パフォーマーです。今は芸術鑑賞プロデュース会社「心」で、学校の芸術鑑賞会をお手伝いしています。
スマートフォンやSNSは、子どもたちにとってすっかり身近なものになりました。そのぶん、画面の向こうの言葉で人が傷つく場面も、学校で向き合わなければならないテーマになっています。今回は、SNSやいじめをテーマにした演劇を芸術鑑賞会で見るときに、どんなふうに授業や学級活動とつなげればいいのかを、舞台をつくる側の目線から考えてみます。
なぜSNSやいじめを「舞台」で考えるのか
SNSのトラブルやいじめについては、授業やプリントで「こういうことをしてはいけません」と伝える機会があると思います。もちろんそれも大切です。でも、正しいことを言葉で聞いても、自分のこととして受け止めるのは簡単ではありません。
演劇のいちばんの力は、観客が登場人物の立場に立って、その時間を一緒に生きることだと私は考えています。送った側の軽い気持ち、受け取った側の胸の痛み、見ていたのに何も言えなかった周りの人の迷い。舞台の上では、それぞれの気持ちが目の前の人の表情や声として届きます。
しかも、舞台で起きているのは「誰かの物語」です。自分やクラスの友だちのことを直接話題にしなくても、登場人物を通して考えることができます。重いテーマを扱うとき、この「少し距離がある」ことが、子どもたちが安心して考えるための大事なクッションになるのです。
法律と学習指導要領から見る、いじめ防止と情報モラル
学校のいじめ対策の土台には、平成25年に公布された「いじめ防止対策推進法」があります。この法律では、いじめを「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)」で、その行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの、と定めています。SNSでの書き込みやメッセージも、はっきりといじめに含まれるということです。
同じ法律の第15条では、学校が「全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実」を図ることが書かれています。また第19条では、情報が広く流通しやすいことや発信者が匿名であることなど、インターネットで送られる情報の特性を踏まえて、子どもと保護者に必要な啓発活動を行うものとされています。
学習指導要領の総則でも、言語能力や問題発見・解決能力などとならんで「情報活用能力(情報モラルを含む。)」が、学習の基盤となる資質・能力のひとつに挙げられています。芸術鑑賞会は学校行事の「文化的行事」ですが、テーマによっては、こうしたいじめ防止や情報モラルの学びと結びつけることができます(芸術鑑賞会の位置づけは日本の芸術鑑賞会の位置づけでも紹介しています)。
イギリスの「アンチ・ブリーイング・ウィーク」に学ぶ
海外の学校の取り組みもひとつ紹介します。イギリスでは毎年11月に「アンチ・ブリーイング・ウィーク(いじめ反対週間)」があります。子ども支援団体のナショナル・チルドレンズ・ビューロー(NCB)が運営する「アンチ・ブリーイング・アライアンス」が中心となって行うもので、2026年は11月16日から20日まで、テーマは「Break the Silence(沈黙を破ろう)」です。
この週には、学校や団体が、いじめを防ぐための授業や全校集会、イベントなどに取り組みます。初日の11月16日は、左右ちがう靴下をはいて参加する「オッド・ソックス・デー」です。NCBは、この取り組みが毎年およそ800万人の子ども・若者と8割を超える学校に届いていると説明しています。
私が面白いと思うのは、「いじめはだめ」と教えるだけでなく、話す・聞く・行動するきっかけをつくることに重きを置いている点です。芸術鑑賞会も同じで、舞台を見たあとに「誰かと話したくなる」時間をつくれるかどうかが、学びの深さを左右します。
学年別|事前学習・事後学習の進め方
同じ演目でも、学年によって受け止め方はちがいます。目安として、こんな進め方が考えられます。
- 小学校高学年:事前に「言われてうれしい言葉・悲しい言葉」を出し合っておくと、舞台の中のせりふに敏感になります。事後は、心に残ったせりふをひとつ選び、「その言葉を言われた人はどう感じたか」を書いてみましょう。
- 中学生:事前は、グループのやりとりで誤解が生まれた経験などを、あくまで「よくある例」として話し合う程度に。事後は、登場人物それぞれの立場(した側・された側・見ていた側)に分かれて、その人の気持ちを考える活動が向いています。
- 高校生:事後に、作品のテーマを社会の問題として捉え直す時間をとりましょう。「もし自分が書き込みを見つけたら、どう動くか」を具体的に話し合ったり、演出の工夫に注目して劇評を書いたりするのもおすすめです。
事前学習でどこまで内容を伝えるかの加減については、芸術鑑賞会の事前学習の進め方でくわしく書いています。物語の結末までは話さず、「何について考える舞台なのか」だけを伝えておくのがちょうどいいと思います。
重いテーマを扱うときに、学校で気をつけたいこと
SNSやいじめをテーマにした舞台は、子どもたちの心に深く届くぶん、配慮も欠かせません。私が大切だと思うのは次の3つです。
- 事前に担任の先生や養護教諭、スクールカウンセラーと共有しておく:つらい経験をしている子が、舞台を見て気持ちが揺れることもあります。見守る目を増やしておきましょう。
- 事後の話し合いで、個人の経験を無理に語らせない:あくまで登場人物について考える形にして、話したくない子が話さなくてすむようにします。
- 相談先を伝えておく:学校の相談窓口に加えて、文部科学省が案内している「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310、24時間365日)など、困ったときに頼れる場所を鑑賞のあとに改めて紹介しておくと安心です。
人権や平和など、ほかの重いテーマを演劇で扱う意味については、平和学習・人権教育と芸術鑑賞会の記事でも紹介しています。
たとえば僕の生きた時間は、SNSのいじめをテーマに、命と言葉の重さを考える演劇です。またロボットのぞみは、心理カウンセラーによる弾き語りと講演で、家族や命の大切さを伝えるステージです。
芸術鑑賞プロデュース会社「心」では、SNSやいじめ、命や家族といったテーマを扱う演劇や講演会もご用意しています。学年や、学校で大切にしている学びのテーマに合わせた演目選びについて、お気軽にご相談ください。
- 法務省 日本法令外国語訳データベース「いじめ防止対策推進法」(第2条・第15条・第19条)
- 文部科学省「いじめ防止対策推進法の公布について(通知)」
- 文部科学省「現行学習指導要領の考え方」(情報活用能力(情報モラルを含む。))
- National Children's Bureau「Anti-Bullying Week 2026 “Break the Silence”」
- 文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」
※制度や事業の内容は、記事作成時点で公開されている情報をもとにしています。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。







