
どうも、こんにちは!ロボットしずくです。稲川幸雄さんの演劇に参加したあと「劇団ロボットカンパニー」を立ち上げ、40人の仲間と舞台をつくってきた演劇人・パフォーマーです。今は芸術鑑賞プロデュース会社「心」で、学校の芸術鑑賞会をお手伝いしています。
芸術鑑賞会の日が近づいてきたら、子どもたちとどんな準備をしておけばいいのでしょう。「何も知らずに見たほうが新鮮では?」という声もあれば、「少しは知っておかないと分からないのでは?」という声もあります。今回は、舞台をつくる側の目線から、事前学習の進め方と「どこまで話すか」の加減を考えてみます。
見る前の「ちょっとした準備」が、鑑賞を変える
同じ舞台を見ても、見る前の気持ちによって受け取るものは大きく変わります。「今日は何が始まるんだろう」とわくわくして座るのと、「体育館に集まってと言われたから来た」という気持ちで座るのとでは、最初の数分の集中がまるで違います。
私は、事前学習のいちばんの役割は知識を詰めこむことではなく、「見たい」という気持ちのスイッチを入れることだと考えています。作品のあらすじを細かく覚える必要はありません。タイトルから想像をふくらませる、出てくる楽器や道具を少しだけ知っておく。それだけで、子どもたちは舞台の上に「自分が探していたもの」を見つけられるようになります。
長い時間をとらなくてもかまいません。朝の会や学級活動の15分ほどでも、準備があるかないかで、当日の客席の空気は変わってきます。
国の学校巡回公演にもある「本公演の前の時間」
見る前に学ぶ時間をとる考え方は、国の事業の中にも取り入れられています。文化庁の「文化芸術による子供育成総合事業」の巡回公演事業について、宮城県の案内では、文化芸術団体が本公演のおおむね1か月前までに実施校を訪問し、児童生徒を対象に鑑賞指導や実技指導、共演の練習などのワークショップを行うと説明されています。そして本公演では、鑑賞に加えて、子どもたちが団体と共演したり体験したりする場面があるとされています。
つまり、ワークショップは本公演に向けた準備の時間として位置づけられているのです。出演者と顔を合わせ、少し体を動かし、舞台の一部を先に体験しておく。そうすることで、本公演の日には「知っている人たちが、知っている場面をやっている」という、特別な見方ができるようになります。
すべての芸術鑑賞会でワークショップができるわけではありませんが、この考え方は、先生方が教室で行う事前学習にもそのまま生かせると私は思います。芸術鑑賞会の制度上の位置づけは日本の芸術鑑賞会の位置づけでも紹介しています。
海外の劇場が先生に配る「事前学習ガイド」
海外の劇場の中には、学校向けの公演にあわせて、先生が使える事前学習の資料を用意しているところがあります。たとえばアメリカのダラス児童劇場(Dallas Children's Theater)は、絵本を原作にした舞台にあわせて「Behind the Curtain」という先生向けのリソースガイドを作り、観劇の前後に教室で使える活動を紹介しています。
その中には、こんな事前の活動があります。
- 舞台化で何が変わるかを予想する:絵本が舞台になるとき、登場人物の見た目や物語の長さはどう変わるか、話し合ってみる。
- 「観客の役割」を考える:舞台の上から客席がどう見えるかを想像して絵に描く、役者に手紙を書いてみる。
- 劇場でのふるまいを知る:テレビやスポーツ観戦とは違い、集中して見たり聞いたりすることが大切だと確認する。
私が面白いと思うのは、「観客の役割」を考える活動です。客席にいる自分も舞台の一部なんだと気づくと、子どもたちの見る姿勢は自然と変わります。鑑賞マナーの伝え方については芸術鑑賞会の鑑賞マナーでくわしく書いています。
学年別・芸術鑑賞会の事前学習アイデア
ここからは、学年に合わせた事前学習のアイデアです。全部を行う必要はありません。演目や時間に合わせて、できそうなものを選んでください。
- 小学校低学年:チラシやタイトルを見せて「どんなお話だと思う?」と予想を出し合います。登場しそうな動物や道具を絵に描いてみるのも楽しい準備です。
- 小学校高学年:原作がある演目なら、原作の一部を読んでおきます。そのうえで「舞台ではどう表現すると思う?」と問いかけると、当日は答え合わせをするように見られます。
- 中学生:作品のテーマに近い身近な話題を、ひとつだけ取り上げて話し合います。友だち、家族、SNSなど、自分ごととして考えた経験が、舞台の言葉を受け止める準備になります。
- 高校生:ジャンルの成り立ちや、作品が生まれた時代背景を調べて共有します。演出や演技に目を向ける「見る視点」をひとつ決めておくと、鑑賞後の話し合いも深まります。
たとえば不思議の国のアリスとロボットは、登校拒否になった少女が「声」を取り戻すまでを描いた、笑って泣けるパフォーマンス演劇です。タイトルにある『不思議の国のアリス』のお話を少しだけ紹介して、「ロボットはどんなふうに出てくると思う?」と予想を出し合っておくのも、ひとつの事前学習になります。伝統芸能の場合は、狂言のように「笑ってもいい芸能なんだよ」と伝えておくだけで、子どもたちの反応が変わることもあります。
どこまで話す?「ネタバレ」の加減と、伝えておきたいこと
事前学習でよく迷うのが、「どこまで内容を話していいのか」ということです。私の考えでは、登場人物や物語の入り口は伝えてもいいけれど、結末や一番の見せ場は取っておくのがおすすめです。驚きや感動は、その瞬間に客席で出会ってこそ、心に残るものだからです。
反対に、事前に伝えておいたほうがいいこともあります。
- 上演時間と休憩の有無:見通しがあると、低学年の子も落ち着いて座っていられます。
- 大きな音や暗くなる場面:苦手な子がいる場合は、前もって知らせておくと安心です。
- 参加する場面があるかどうか:手拍子や声を出す場面があれば、練習しておくと当日盛り上がります。
そして、事前学習は鑑賞のあとともつながっています。見る前に考えたことを、見たあとに振り返る。その流れについては芸術鑑賞会の感想文の書かせ方で紹介しているので、あわせて読んでみてください。
芸術鑑賞プロデュース会社「心」では、演劇・音楽・伝統芸能・パフォーマンス・講演会まで20を超える演目の中から、学年や学習のテーマ、事前・事後の学習とのつなげ方に合わせた演目をご提案しています。「原作のある演劇を見せたい」「伝統芸能を楽しく体験させたい」など、鑑賞会のねらいに合わせた演目選びについて、お気軽にご相談ください。
- 宮城県「令和7年度文化芸術による子供育成総合事業【北部】」
- Dallas Children's Theater「Behind the Curtain: A Creative & Theatrical Resource Guide for Teachers」(Elephant & Piggie's "We Are In a Play!")
※制度や事業、取り組みの内容は、記事作成時点で公開されている情報をもとにしています。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。







