
どうも、こんにちは!ロボットしずくです。稲川幸雄さんの演劇に参加したあと「劇団ロボットカンパニー」を立ち上げ、40人の仲間と舞台をつくってきた演劇人・パフォーマーです。今は芸術鑑賞プロデュース会社「心」で、学校の芸術鑑賞会をお手伝いしています。
今回のテーマは「キャリア教育と芸術鑑賞会」です。進路や将来の話は、教室で説明を聞くだけではなかなか自分ごとになりにくいもの。でも、目の前で本気の舞台や話にふれると、「働くってこういうことかも」と心が動く瞬間があります。学習指導要領のキャリア教育の考え方や、イギリスの進路指導の指標も参考にしながら、芸術鑑賞会を進路の学びにつなげる工夫を考えてみます。
キャリア教育とは?学習指導要領での位置づけ
まず、「キャリア教育」という言葉の意味を確認しておきましょう。中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(平成23年1月)では、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育」としています。
キャリア教育は、職業を調べたり職場体験をしたりすることだけではありません。小学校・中学校学習指導要領(平成29年告示)と高等学校学習指導要領(平成30年告示)の総則には、「学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」という趣旨の記述があります。
ここで大事なのは、キャリア教育の「要」が特別活動だということです。芸術鑑賞会は、特別活動の学校行事のひとつ「文化的行事」にあたります(くわしくは日本の芸術鑑賞会の位置づけで紹介しています)。つまり芸術鑑賞会は、もともとキャリア教育とつなげやすい場所にある行事なのです。
また、文部科学省は、子どもたちが特別活動を中心に学びや活動を記録して積み重ねる「キャリア・パスポート」について、2020年4月までの実施に向けて準備を進めるよう各設置者に求め、例示資料を示しました。芸術鑑賞会で感じたことも、こうした振り返りの記録に残すことができます。
芸術鑑賞会が「働く大人」に出会う場になる理由
私は、芸術鑑賞会は子どもたちにとって「本気で働く大人」に出会える貴重な時間だと考えています。舞台に立つ出演者は、その道で生きていくと決めて、長い時間をかけて技を磨いてきた人たちです。
そして舞台は、出演者だけでつくられているわけではありません。音響、照明、舞台の設営、衣装、移動や準備の段取り。私自身、劇団で仲間と舞台をつくってきた立場から言うと、一つの公演の裏側には、たくさんの人の仕事が重なっています。
「この舞台を届けるために、どんな仕事が必要だったと思う?」。そう問いかけるだけで、子どもたちの目は舞台の上だけでなく、その裏側にも向きます。好きなことを仕事にする人がいること、一つのものをチームでつくる働き方があること。教科書の中の「職業」とは違う、生きた手ざわりが残るはずです。
海外の例|イギリスの「ギャツビー・ベンチマーク」
海外にも、「働く人との出会い」を大切にする考え方があります。イギリス(イングランド)では、学校の進路指導の目安として「ギャツビー・ベンチマーク(Gatsby Benchmarks)」が使われています。
イングランドで学校の進路教育を支援する「The Careers & Enterprise Company」の説明によると、このベンチマークはジョン・ホルマン氏がギャツビー財団のためにまとめたもので、質の高い進路教育の姿を8つの項目で示しています。その5番目が「雇用主や働く人との出会い(Encounters with employers and employees)」です。ベンチマークは2025年に見直され、国の法定ガイダンスにも盛り込まれています。
働く人と直接出会うことを、進路教育の柱の一つとしてはっきり位置づけている点は、日本の芸術鑑賞会や講演会を考えるうえでも参考になる考え方だと思います。海外の芸術教育の取り組みについては、海外の芸術鑑賞教育の記事でも紹介しています。
講演会・舞台を進路の学びにつなげる事前・事後の工夫
芸術鑑賞会をキャリア教育につなげるには、見る前と見たあとに少しだけ「問い」を用意しておくのがおすすめです。
- 事前:出演者がどんな道を歩んできた人なのかを、演目の紹介から少しだけ伝えておきます。「この人は何がきっかけでこの道に進んだと思う?」と予想させておくと、当日の聞き方が変わります。
- 当日:講演会なら「自分の心に残った一言」を一つ探しながら聞く。舞台なら「この場面のために、どんな練習や準備があったか」を想像しながら見る。探すものを一つにしぼるのがコツです。
- 事後:「心に残った一言」と「それを聞いて自分がやってみたいこと」をセットで書きます。キャリア・パスポートなどの振り返りの記録に残しておくと、学年が上がったときに読み返すこともできます。
感想の書かせ方については、芸術鑑賞会の感想文の書かせ方の記事で、書く前の問いかけをくわしく紹介しています。
学年別|キャリア教育につなげる演目の選び方
キャリア教育のねらいは同じでも、学年によって響く内容は変わります。演目を選ぶときの目安を、私なりにまとめてみました。
- 小学校:まずは「すごい!」「やってみたい!」という気持ちを大切に。体験の時間がある演目や、見て楽しめるパフォーマンスがおすすめです。あこがれは、働くことへの興味の入り口になります。
- 中学校:職場体験や進路学習が始まる時期です。挫折や迷いを乗り越えて今の仕事にたどり着いた人の話は、「失敗してもいいんだ」という安心にもつながります。
- 高校:進路を具体的に選ぶ時期だからこそ、一つの道を極めたプロの舞台や、自分の選択について率直に語る講演会がよく響きます。進路行事とあわせて考えるのも一つの方法です。高校の芸術鑑賞会については高校の芸術鑑賞会の記事でも紹介しています。
たとえばギネス世界記録保持者が教える夢の掴み方は、バスケットボールのパフォーマンスで世界ギネス記録を達成したパフォーマーの講演です。高校で試合に出られなかった挫折や、銀行員として働いたあとにパフォーマーを仕事に選ぶまでの迷いが語られる内容で、進路を考える中学生・高校生にも重ねやすいテーマです。またサンドアートショー・講演会は、砂で描く実演や生徒の体験に加えて、講演会「夢とは」の時間もあるプログラムです。
芸術鑑賞プロデュース会社「心」では、演劇・音楽・伝統芸能・パフォーマンス・講演会まで20を超える演目の中から、キャリア教育や進路学習のねらいに合った舞台・講演会をご提案しています。「夢や働くことを考えるきっかけになる演目を探している」「進路行事と組み合わせたい」など、お気軽にご相談ください。
- 文部科学省「5.児童生徒の発達の支援」(学習指導要領 総則 キャリア教育の充実)
- 広島県ウェブサイト掲載資料(中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」平成23年1月 のキャリア教育の定義)
- 文部科学省「キャリア・パスポート」例示資料等について
- The Careers & Enterprise Company「Gatsby Benchmarks」
※制度や取り組みの内容は、記事作成時点で公開されている情報をもとにしています。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。







