
どうも、こんにちは!ロボットしずくです。稲川幸雄さんの演劇に参加したあと「劇団ロボットカンパニー」を立ち上げ、40人の仲間と舞台をつくってきた演劇人・パフォーマーです。今は芸術鑑賞プロデュース会社「心」で、学校の芸術鑑賞会をお手伝いしています。
芸術鑑賞会の舞台は、昔話や名作だけではありません。ドイツのベルリンには、子どもたちの「今」の毎日を舞台にして、50年以上活動を続けてきた劇場があります。今回は、そのGRIPS劇場の歩みと学校とのつながりを紹介しながら、日本の芸術鑑賞会に生かせるヒントを、舞台をつくる側の目線で考えてみます。
子どもの「今」を舞台にする、ベルリンのGRIPS劇場
ドイツの首都ベルリンに、GRIPS劇場(GRIPS Theater)という子どもと若者のための劇場があります。劇場の公式サイトによると、GRIPSの作品は子どもたちの日常生活を題材にし、自信と社会的な想像力を育てることをめざしてきました。客席の中心にいるのは、学校のクラス単位で見に来る子どもたちです。
昔話や名作を上演する子ども劇場とちがうのは、舞台の上にいるのが「今を生きる子ども」だということ。家族のこと、学校のこと、友だちとのすれちがい。客席の子どもたちが「これ、自分のことだ」と思える物語を、歌と笑いをまじえて描いてきました。
劇場は自らを、観客の利益を代弁する「必要とされる劇場」と表現し、子どもや若者の基本的な権利を大切にする姿勢を示しています。この考え方は、子どもの権利条約と芸術鑑賞会で紹介した「子どもが芸術に参加する権利」ともつながっています。
1969年からの歩み|名前に込められた「考えることは楽しい」
GRIPSの始まりは、1966年にベルリンの「ライヒスカバレット」という風刺劇場の中で生まれた子ども向けの劇団でした。中心になったのは、カバレット(風刺劇)の作家だったフォルカー・ルートヴィヒです。劇場は、1969年5月17日に初演された『シュトッカーロックとミリピリ』を自分たちの出発点としています。
1972年に劇団は「GRIPS」と名のるようになります。GRIPSとは、ドイツ語のくだけた言い方で「頭の働き」や「理解する力」を表す言葉。「考えることは楽しい」という思いを込めた名前です。1974年には、ベルリンのハンザプラッツにある元映画館を改装した劇場に拠点を移しました。
1986年4月には、ベルリンの地下鉄U1線を舞台にした音楽劇『リーニエ・アインス(1号線)』が初演されます。公式サイトでは、上演回数4,000回を超えるドイツ語作品として紹介されています。子どものための劇場から生まれた作品が、大人も含めた多くの観客に届いたのです。また公式サイトでは、GRIPSの作品が日本の名古屋で上演されたことにも触れられています。
学校は「もうひとつの劇場」|GRIPSの演劇教育
GRIPSのもうひとつの特徴が、演劇教育(テアターペダゴギーク)です。公式サイトによると、2002年に演劇教育の部門がつくられ、今ではドイツでも最大規模の演劇教育部門のひとつとされています。
取り組みは幅広く、ワークショップ、先生向けの研修、子ども・若者のクラブ活動、教室で上演する作品などがあります。30校を超える学校とのパートナーシップもあり、劇場は学校を「もうひとつの劇場」と呼んでいます。また作品づくりの過程に子どもや若者がかかわることもあり、作品ごとにオリジナルの歌がつくられるなど、音楽も大切な要素になっています。
劇場に足を運んで見るだけでなく、劇場の人が学校に入り、子どもたちと一緒に考える。そのしくみが、劇場の活動の中にきちんと組み込まれているのです。イギリス・フランス・アメリカの取り組みは海外の芸術鑑賞教育でも紹介していますが、ドイツのGRIPSは「子どもの日常を描く作品」と「学校とのつながり」がセットになっている点が印象的です。
日本の芸術鑑賞会に生かせる3つのヒント
日本の芸術鑑賞会は、学習指導要領では特別活動の学校行事「文化的行事」にあたります。GRIPSの取り組みから、日本の学校でも生かせそうなヒントを3つ考えてみました。
- 「自分ごと」になる演目を選ぶ:家族、友だち、学校生活など、子どもたちの毎日に近いテーマの舞台は、見たあとの話し合いが自然に生まれます。
- 見る前と見たあとに「考える時間」をとる:鑑賞の前に「主人公はどんな悩みをかかえていると思う?」、見たあとに「自分ならどうした?」と問いかけるだけでも、舞台が学びにつながります。
- 子どもの声を出演者に届ける:感想や質問を出演者に伝えることで、子どもたちは「自分の考えを受け止めてもらえた」と感じられます。
どれも特別な設備はいりません。体育館での公演でも、ホールでの公演でも、学校の工夫しだいで取り入れられることばかりです。
学年別|子どもの日常を描く演劇の見方
子どもの日常を描く演劇は、学年によって見どころが変わります。
- 小学校低学年:「登場人物はうれしかった?かなしかった?」と、気持ちの変化に目を向けます。事後は好きな場面の絵とひとことで十分です。
- 小学校高学年:「なぜその人はそうしたのか」を考えます。家族や友だちとの関係が描かれた舞台なら、自分の経験と比べるきっかけになります。
- 中学生:思春期の悩みや、言えなかった本音が描かれた舞台が合います。少人数で「自分ならどうするか」を話し合うと、考えが深まります。
- 高校生:舞台が社会のどんな問題を映しているのかを考えます。演出の工夫に目を向けて、劇評を書いてみるのもおすすめです。
たとえば朝、起きたらロボットになっていたは、高校生の本音がプロジェクターに映し出される演出で、最後は家族への感謝の気持ちが自然と出てくる舞台です。また不思議の国のアリスとロボットは、登校拒否になった少女が「声」を取り戻すまでを描く、笑って泣けるパフォーマンス演劇です。どちらも、子どもたちが自分の毎日と重ねながら見られる作品です。
芸術鑑賞プロデュース会社「心」では、演劇・音楽・伝統芸能・パフォーマンス・講演会まで20を超える演目の中から、家族や友だち、学校生活など子どもたちの「今」にふれる演目をご提案しています。学年やテーマ、事前・事後の学習につなげたいことなど、お気軽にご相談ください。
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